スポンサーサイト

  • 2007.01.03 Wednesday
  • -
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク

一定期間更新がないため広告を表示しています


どうだ

勝ったよ

前半

     一

 いろんなものを愛撫し尽した果が、石に来るといふことをよく聞いた。屠琴塢は多くの物を玩賞したが、一番好きなのは石だつた。一生かかつて奇石三十六枚を貯へ、それを三十六峰に見立てて、一つびとつ凝つた名前をつけ、客があるとそれを見せびらかせたものださうだ。鄭板橋はまた好んで石を描いたが、その石といふ石がみんな醜くて、ずばぬけて雄偉なのには、見る人がびつくりしたといふことだ。東坡が『石は文にして醜だ。』といつたのを思ひ合せると、石の醜さを描いたり、愛したりするところに、ほんたうに石を愛するものの本領が見えてゐる筈だ。

 宋代の書家として名声を馳せた米元章は、誰よりもすぐれて石を愛した人であつた。淮南軍の知事になつたとき、役所の庭にふしぎな、醜い形をした大きな石があるのを見て、大よろこびによろこび、早速衣冠をととのへてそれにお辞儀をした。そして
『兄弟。あなたにお目にかかつて、こんな嬉しいことはありません。』
 といつて、石を兄弟扱ひにしたものだ。この大げさな振舞が上役人に聞えて、元章はたうとう役を罷められてしまつたが、彼が石に対する愛情は、いきなり声をあげて
『兄弟……』
 と、懐しさうに呼びかけないではゐられなかつたのに見ても、それが如何に深いものであつたかが解るだらう。

 霊璧は変つた石を産するので名高いところだが、米元章はそこからあまり遠くない郡で役人をしてゐたことがあつた。大の石好きが、石の産地近くに来たのだから堪らない。元章は昼も夜も石を集めては、それを玩んでゐるばかしで、一向役所のつとめは見向かうともしないので、仕事が滞つて仕方がなかつた。ところへ、丁度楊次公が按察使として見廻りにやつて来た。楊次公は、元章とは眤懇のなかだつたが、役目の手前黙つてもゐられないので、苦りきつていつた。
『近頃世間の噂を聞くと、また例の癖が昂じてゐるさうだね。石に溺れて役向きを疎にするやうでは、お上への聞えもおもしろくなからうといふものだて。』
 米元章は上役の刺(とげ)のある言葉を聞いても、ただにやにや笑つてゐるばかしで、返事をしなかつた。そして暫くすると、左の袖から一つの石を取出して、按察使に見せびらかした。
『といつてみたところで、こんな石に出会つてみれば、誰だつて愛さないわけにゆかないぢやありませんか。』
 楊次公は見るともなしにその石を見た。玉のやうに潤ひがあつて、峰も洞もちやんと具つた立派な石だつた。だが、この役人はそしらぬ顔ですましてゐた。すると、米元章はその石をそつと袖のなかに返しながら、今度はまた右の袖から一つの石を取出して見せた。
『どうです。こんな石を手に入れてみれば、誰だつて愛さないわけに往かないぢやありませんか。』
 その石は色も形も前のものに較べて、一段と秀れたものだつた。米元章はそれを手のひらに載せて、やるせない愛撫の眼でいたはつて見せた。楊次公は少しも顔色を柔げなかつた。
 米元章はその石をもとのやうに袖のなかに返したかと思ふと、今度はまた内ふところから、大切さうに第三の石を取出した。按察使はそれを見て、思はず胸を躍らせた。黒く重り合つた峰のたたずまひ、白い水の流れ、洞穴と小径との交錯、――まるで玉で刻んだ小天地のやうな味ひは、とてもこの世のものとは思はれなかつた。
『どうです。これを見たら、どんな人だって、愛さないわけにはゆきますまい。』
 嬉しくてたまらなささうな米元章の言葉を、うはの空に聞きながら、楊次公は呻くやうに言つた。
『ほんたうにさうだ。私だつて愛する…………』
 そしてすばしこく相手の手からその石をひつ攫(さら)つたかと思ふと、獣のやうな狡猾さと敏捷さとをもつて、いきなり外へ駆け出して往つた。
 門の外には車が待たせてあつた。楊次公はそれに飛び乗るが早いか、体躯(からだ)中を口のやうにして叫んだ。
『逃げろ。逃げろ。早く、早く……』

液晶ポリマー

全項目
--------------------------------------------------------------------------------
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】特許第3780000号(P3780000)
(24)【登録日】平成18年3月10日(2006.3.10)
(45)【発行日】平成18年5月31日(2006.5.31)
(54)【発明の名称】液晶ポリマー
(51)【国際特許分類】

C08G 61/00 (2006.01) C09K 19/38 (2006.01) C09K 19/42 (2006.01) G02F 1/13 (2006.01)
【FI】

C08G 61/00 C09K 19/38 C09K 19/42 G02F 1/13 500
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願平9−517146
(86)(22)【出願日】平成8年10月31日(1996.10.31)
(65)【公表番号】特表平11−514683
(43)【公表日】平成11年12月14日(1999.12.14)
(86)【国際出願番号】PCT/GB1996/002654
(87)【国際公開番号】WO1997/016504
(87)【国際公開日】平成9年5月9日(1997.5.9)
【審査請求日】平成15年10月21日(2003.10.21)
(31)【優先権主張番号】9522361.6
(32)【優先日】平成7年11月1日(1995.11.1)
(33)【優先権主張国】イギリス(GB)
(73)【特許権者】
【識別番号】         
【氏名又は名称】キネテイツク・リミテツド
【住所又は居所】イギリス国、ロンドン・エス・ダブリユ・1・6・テイ・デイ、バツキンガム・ゲート・85
(74)【代理人】
【識別番号】         
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】         
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 満
(74)【代理人】
【識別番号】         
【弁理士】
【氏名又は名称】一入 章夫
(74)【代理人】
【識別番号】         
【弁理士】
【氏名又は名称】大崎 勝真
(74)【代理人】
【識別番号】         
【弁理士】
【氏名又は名称】相馬 貴昌
(72)【発明者】
【氏名】ホール,アラン・ウイリアム
【住所又は居所】イギリス国、ハル・エイチ・ユー・6・7・アール・エツクス、ユニバーシテイ・オブ・ハル、スクール・オブ・ケミストリー(番地なし)
(72)【発明者】
【氏名】レイシー,デイビツド
【住所又は居所】イギリス国、ハル・エイチ・ユー・6・7・アール・エツクス、ユニバーシテイ・オブ・ハル、スクール・オブ・ケミストリー(番地なし)
(72)【発明者】
【氏名】セージ,イアン・チヤールズ
【住所又は居所】イギリス国、ウスターシヤー・ダブリユ・アール・14・3・ピー・エス、モールバーン、セント・アンドリユーズ・ロード、デイフエンス・リサーチ・エージエンシー(番地なし)
(72)【発明者】
【氏名】ブラツクウツド,キース・マリー
【住所又は居所】イギリス国、ウスターシヤー・ダブリユ・アール・14・3・ピー・エス、モールバーン、セント・アンドリユーズ・ロード、デイフエンス・リサーチ・エージエンシー(番地なし)
(72)【発明者】
【氏名】ジヨーンズ,ミシエル
【住所又は居所】イギリス国、ウスターシヤー・ダブリユ・アール・14・3・ピー・エス、モールバーン、セント・アンドリユーズ・ロード、デイフエンス・リサーチ・エージエンシー(番地なし)
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表平08−508313(JP,A)
【文献】特開平07−138568(JP,A)
【文献】特開平07−110469(JP,A)
【文献】特開平05−032736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 36/20
C08F136/20
C08F236/20
C08G 61/00 - 61/12


--------------------------------------------------------------------------------

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I



[式中、
m=少なくとも5である;
X1及びX2は独立に、式IA



(式中、
Yは、COO、OCO、O、S、CHOH、CHF、CH2から選択される;
Q=(CH2)n(式中、1個以上の非隣接メチレンはOにより置き換えてもよく、及びn=1−20である)である;
Zは、O、S、単共有結合、COO、OCOから選択される;
ここで、YがCH2である場合、nは0でもよい;



は、任意のメソーゲン基を表す)
から選択される;
X1及びX2はまた独立に、H、OH、OCOR1、COOH、CO2R1、(CH2)pOH、(CH2)pCO2H、−(CH2)pOR1、又は−(CH2)pCO2R1から選択され、p=1−20、R1=H又はC1-16アルキルである;
ここで、R1=C2-16アルキルである場合、末端CH3基はBr又はClで置き換えてもよい;
但し、X1とX2の少なくとも一つは式IAから選択される]
を有する物質。
【請求項2】
メソーゲン基が、一般式II



[式中、
A、B、Dは、以下の環から選択される:



上記環は、利用できる置換位置の少なくとも一つで1種以上の以下の置換基で置換されていてもよい:F、Cl、Br、CH3、CN、OR、R及びNCS(式中、RはC1-5分岐鎖又は直鎖アルキルである);
Zは、CN、F、Cl、NO2、R、OR、CO2R、CF3、OOCR、NCS、SCN(式中、Rは直鎖又は分岐鎖アルキルであり、1〜16個の炭素原子を含みえ、1ケ以上の非隣接CH2基が、キラル又は非キラル形態で、CH(CN)、CH(CF3)、CH(Cl)、CH(CH3)で置換されてもよい)から選択される;
但し、存在する環の合計数は4以下である;
W1及びW2は独立に、COO、OCO、単結合、CH2CH2、CH2O、OCH2、O、S、CH=CH、C≡Cから選択される]
で表されることを特徴とする請求項1に記載の物質。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とする液晶混合物。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とする強誘電性液晶混合物。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とするコレステリック液晶混合物。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物のいずれか及び以下の一般式



(式中、R1及びR2は独立にC3−C12アルキル又はアルコキシである)
を有する物質を含む液晶混合物。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物のいずれか及び以下の一般式



(式中、R1及びR2は独立にC3−C12アルキル又はアルコキシであり、xは1であり、Fは特定されたフェニル環上の利用できる置換位置のいずれかの上にあってもよい)
を有する物質を含む液晶混合物。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物のいずれか及び以下の一般式



(式中、R1及びR2は独立にC3−C12アルキル又はアルコキシである)
を有する物質を含む液晶混合物。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物のいずれか及び以下の一般式



を有する化合物(式中、R1がC3−C12アルキルであり、R2が一般式(CH2)n−CHXCH2CH3(式中、nは1〜5、XはCN又はClである)である化合物を包含する)を含む液晶混合物。
【請求項10】
請求項1に記載の化合物のいずれか及び以下の一般式



を有する物質(式中、R1及びR2が独立にC1−C15アルキルである化合物を包含する)を含む液晶混合物。
【請求項11】
請求項1に記載の化合物のいずれか及び以下の一般式



を有する物質(式中、R1及びR2が独立にC3−C9アルキルである化合物を包含する)を含む液晶混合物。
【請求項12】
2枚の間隔の空いたセル壁を有し、各々の壁は、電極構造を有し且つ少なくとも一つの向い合っている表面上で配向層で処理され、該セル壁の間に液晶材料層が挿入されているデバイスであって、請求項3、4、5のいずれかに記載の液晶混合物が導入されていることを特徴とする該デバイス。
【請求項13】
2つの間隔の空いた電極及び該電極間に取囲まれた液晶材料層を含んでなる焦電気デバイスであって、請求項3に記載の液晶混合物が導入されていることを特徴とする該焦電気デバイス。
【請求項14】
2つの間隔の空いた電極及び該電極間に取囲まれた液晶材料層を含んでなる圧電気デバイスであって、請求項3に記載の液晶混合物が導入されていることを特徴とする該圧電気デバイス。
【請求項15】
液晶電気光学ディスプレイデバイスであって、請求項3、4、5のいずれかに記載の混合物が導入されていることを特徴とする該デバイス。
【請求項16】
請求項1に記載の1種以上の化合物及び色素物質を含む記録層を含む光学記録媒質。


--------------------------------------------------------------------------------

【発明の詳細な説明】
本発明は、新規な液晶ポリマー(LCP)、新規な中間体及びそれらの製造法に関する。
液晶は種々の相状態で存在し得る。液晶材料には、それぞれ特徴的な分子配向を有する実質的に3種の異なる液晶相が存在する。これらの液晶相の種類は、ネマチック、キラルネマチック(コレステリック)及びスメクチックである。例えば、スメクチックA及びスメクチックCのような多様なスメクチック相が存在する。ある種の液晶材料は、温度変化に応じて多くの液晶相を示すが、他の液晶材料は1種類の液晶相しか示さない。例えば、あるい液晶材料は、冷却すると、等方性相から以下の相:等方性→ネマチック→スメクチックA→スメクチックC→固体を示し得る。ある材料がスメクチックAと記載されている場合、それは、該材料が有用な操作温度範囲にわたりスメクチックA相に保たれることを意味する。
スメクチックA(SA)相をとる材料は、電傾効果を示し得る。電傾効果は、先ず、S.Garoff及びR.Meyer,Phys.Rev.Lett.,38,848(1977)に記載された。電傾デバイスも、英国特許出願GB−2,244,566A号に記載されている。この特定のデバイスは、小さい角度範囲内で表面の傾きを与える表面配向を用いる電傾(EC)デバイスの不十分な配向問題を克服する助けをする。
スメクチックA相がキラル分子からなる場合、該相は、電傾効果、即ち、分子の傾きと印加される電界との直接結合を示し得る。キラル極性分子からなるスメクチックA相における電傾効果の起源は、Garoff及びMeyerにより以下のように記載された。そのようなスメクチックA相のスメクチック層に平行に電界を印加すると、横軸分子双極子の自由回転が傾き、それによって分子分極の横軸エレメントの非ゼロ平均が生じる。そのような双極子モーメントが存在し且つ分子キラリティーに結合すると、双極子モーメントに対して垂直な平面において分子の長軸(配向ベクトル)の傾きが誘導される。
例えば、スメクチック層がガラス相に対して傾いているか又は該相に垂直である1〜3mmの薄い試料では、印加される電界が低くても電傾効果が検出可能である。
配向されたスメクチックA試料においては、配向ベクトルの傾きは光学軸の傾きに比例する。電傾効果により、線形電気光学的レスポンスが生ずる。電気光学的効果は、該デバイスの有効複屈折の変調として出現し得る。
電傾(EC)デバイスは、例えば、印加電圧に応じて出力が線形に変化する空間光変調器(spatial light modulator)において有用である。ECデバイスのさらなる利点は、該デバイスがねじれネマチック型デバイスよりはるかに速い高速レスポンス時間を有することである。1つの公知タイプの強誘電デバイスは双安定性であるが、それに対し、ECデバイスは双安定性ではなく、印加電圧に応じて出力が線形に変化する。
電傾効果はソフトモード効果(soft-mode effect)と称される場合もある〔G.Anderssonら,Appl,Phys.Lett.,51,9,(1987)参照〕。
一般に電傾効果に関して、低電圧を印加しても大きな傾きが誘導されれば有利である。誘導される傾きが増大すると、コントラスト比が増大し得る。また、電圧を出来る限り低くしても大きな傾きが誘導されるなら有利である。
さらに、誘導される分子の傾きと印加される電圧との関係が温度非依存性であれば有利である。印加電圧が増大しても、誘導される傾きに殆ど又は全く変化がない場合、該テスト材料は一般に飽和電圧効果を示すと称される。
SA*とは、キラル分子を部分的に含むSA相を意味する。
コレステリック又はキラルネマチック液晶は、らせんピッチ長の変化により温度変化に対応し得るねじれらせん構造をとる。従って、温度が変化するにつれ、その平面のコレステリック構造から反射した光の波長が変化し、該反射光が可視範囲にわたる場合、温度変化につれ明瞭な色の変化が生じる。これは、サーモグラフィー及びサーモオプティックスの領域を含めた多くの可能な用途が存在することを意味している。
コレステリック中間相は、配向ベクトルがスペース中で一定ではなく、らせん状の変形を受けるという点で、ネマチック相とは異なる。らせんピッチ長は配向ベクトルが360°回転する距離の尺度である。
コレステリック材料とはキラル材料と定義される。コレステリック材料は、ドーパントとして、電気光学的ディスプレイ、例えば、該材料を逆ねじれ欠陥の除去に用い得るねじれネマチックディスプレイにも用い得る。コレステリック材料は、導波の阻止によるコントラストの強化に用い得るコレステリック染色相からネマチック染色相への変色ディスプレイ(cholesteric to nematic dyed phase change displays)にも用い得る。
コレステリック液晶材料をサーモクロミーに用いる場合には、通常、該材料の薄層を形成し、次いで、該層を黒色のバックグラウンドに対して見る。これらの感温デバイスは、温度計測、医療用サーモグラフィー、非破壊テスト、放射線感知及び装飾用のものを含めた多くの用途に用い得る。これらの例は、D.G.McDonnell,Thermotropic Liquid Crystals,Critical Reports on Applied Chemistory,第22巻,G.W.Gray編(1987),120−44ページに見ることができるが、この文献にはさらに熱変色性コレステリック液晶の概説が含まれている。
一般に、熱変色性製品には、融点が低く、ピッチ長が短く、且つ、スメクチック遷移が、要求される感温領域よりわずかに低い混合物の形成を必要とする。該混合物又は材料が低い融点と高いスメクチック−コレステリック遷移温度を有するのが好ましい。
一般に、熱変色性液晶デバイスは、透明な支持基板と黒色の吸着層との間のコレステローゲン薄層を有する。該層の1つの製造方法は、液晶をポリマー中に封入して液晶を含む「インク」と製造し、プリント技術を用いて該インクを支持基板に塗布することを含む。該インクの製造法には、ゼラチンのマイクロカプセル化(米国特許第3,585,318号)や、ポリマー分散(米国特許第1,161,039号及び同第3,872,050号)が含まれる。コレステリック液晶の良好に配向された薄層構造を製造する1つの方法は、2つのプラスチックエンボスシートの間に液晶を積層することを含む。この方法は英国特許第2,143,323号に記載されている。
アキラルホストとキラルドーパントを混合して製造し得る強誘電性スメクチック液晶材料は、傾斜キラルスメクチックC、F、G、H、I、J及びK相の強誘電特性を用いる。キラルスメクチックC相はSC*(*はキラリティーを示す)で表される。一般に該SC相は、最も粘性が低いために最も有用であると考えられる。強誘電性スメクチック液晶材料は、以下の特性:低い粘性、制御可能な自発分極(Ps)、及び周囲温度を含めた広範な温度範囲にわたり存続し且つ化学的及び光化学的に安定なSC相を有するのが理想的である。これらの特性を有する材料によって、高速スイッチング液晶含有デバイスを得る可能性が提供される。強誘電性液晶のいくつかの用途が、J.S.Patel及びJ.W.Goodbyにより、Opt.Eng.,1987,26,273に記載されている。
強誘電性液晶デバイスにおいて、分子は、印加される電界の極性に応じて種々の配向方向にスイッチされる。これらのデバイスは、分子が他のスイッチ状態にスイッチされるまで2つの状態のうちの一方に留まる傾向がある双安定性を示すように配向し得る。そのようなデバイスは、例えば、米国特許第5061047号、同第4367924号及び同第4563059号に記載されているような表面安定型強誘電性デバイスと称されている。この双安定性により、極めて大型且つ複雑なデバイスのマルチプレックス駆動が可能になる。
1つの汎用マルチプレックスディスプレイは、ディスプレイエレメント、即ち、例えば英数字文字表示用X、Yマトリックスフォーマットで配向された画素を有する。該マトリックスフォーマットは、一方のスライド上には電極を直列の列(column)電極として形成し、他方のスライド上には電極を一連の行(row)電極として形成することにより得られる。各列と行の間の中間部は番地付け可能なエレメント又は画素を形成する。例えば、7バー数値ディスプレイ(seven bar numeric displays)のような他のマトリックスレイアウトが公知である。
多くの異なるマルチプレックス番地付け配列が存在する。共通の特徴は、電圧、いわゆるストロボ電圧を各列又は行に印加することを含む。各行に印加されるストロボ電圧と同時に、適切な電圧、いわゆるデータ電圧を全ての列電極に印加する。種々の配列の相違点は、ストロボ電圧波形とデータ電圧波形の形状にある。
他の番地付けスキームは、GB−21,146,473−A;GB−2,173,336−A;GB−2,173,337−A;GB−2,173,629−A;WO89/05025;Haradaら,1985、S.I.D.Paper 8.4,131−134ページ;Lagerwallら,1985,I.D.R.C.,213−221ページ及びP.Malteseら,Proc.1988,I.D.R.C.90−101ページ,Fast Addressing for Ferroelectric LC Display Panelsに記載されている。
該材料は、その2つの状態の間で、データ波形と組み合わされた対向サインを有する2つのストロボパルスによりスイッチされる。あるいは、ブランキングパルスを用いて該材料をその状態の1方にスイッチし得る。ときどき、ブランキングパルスとストロボパルスのサインを交替させてネットd.c.値を維持する。
通常、これらのブランキングパルスは、2つのデータ波形のどちらがどの交点部に印加されるかに拘わらず材料がスイッチされるようにストロボパルスより印加の振幅及び長さが大きい。ブランキングパルスはストロボパルスより前に行ベースで行上に印加するか、あるいはディスプレイ全体を一度にブランクするか、又は行グループを同時にブランクし得る。
強誘電性液晶デバイス技術の分野においては、デバイスの最高の性能を引き出すために、特定のタイプのデバイスに最も適した強誘電性スメクチック特性を有する材料を与える化合物の混合物を用いることが重要であることは周知である。
デバイスは、レスポンス時間対パルス電圧曲線を考慮することにより速度を評価し得る。この関係は、特定の印加電圧(Vmin)におけるスイッチング時間(tmin)における最小値を示し得る。Vminより高いか低い電圧では、スイッチング時間はtminより長い。そのようなレスポンス時間対電圧曲線における最小値を有するデバイスは、他の強誘電性液晶デバイスより高いコントラストを以て高能力比でマルチプレックス駆動され得ることは十分理解されるところである。前記レスポンス時間対電圧曲線における最小値が、低電圧源及び高速フレームアドレスリフレッシュ率を用いたデバイスの駆動を可能にするべく、それぞれ低印加電圧及び短パルス長で出現するのが好ましい。
強誘電性デバイスに含めたときにそのような最小値が得られない(材料が適当な液晶特性を有する化合物の混合物である)典型的な公知材料には、SCE13及びZLI−3654(どちらもMerck UK Ltd.,Poole,Dorsetから販売されている)として知られている市販材料が含まれる。そのような最小値を示すデバイスは、PCT GB88/01004号に従い、例えば市販のSCE8(Merck UK Ltd.)のような材料を用いて形成し得る。従来技術材料の他の例は、PCT/GB86/00040号、PCT/GB87/00441号及びUK2232416B号に例示されている。
ポリマーの基本的構成ブロックである単位はモノマーと称される。
重合過程、即ち、ポリマー構成モノマーからポリマーを生成する過程では、通常、均一分子量を有するポリマーは形成されず、むしろ、分子量の分布が認められる。ポリマー試料を記載する際には、重合度(D.P.)と称される、ポリマー1分子当たりの平均モノマー数を述べる必要がある。大多数のポリマー分子のモノマー数がこの平均値とどれだけ異なるか(又は分子量の広がりを説明する数値)を多分散性(polydispersity)と称する。
所与の試料に関し、数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwを含めたいくつかの異なる平均分子量がゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)から得られる。D.P.の算出に用いられる値は通常Mnであり、多分散性は通常Mw/Mnと定義される。
ポリマーを複数の異なる種類のモノマーから製造することが可能であり、そのようなポリマーはコポリマーと称される。2種類のモノマーがランダムに結合している場合、該ポリマーはランダムコポリマーと称される。2種類のモノマーが先ずそれぞれ短いモノマー鎖を形成し、次いでこれらのモノマー鎖が組み合わされて最終的なポリマーを形成して、ブロックコポリマーが生成する。一方のモノマーの短い鎖が他方のモノマーからなる長い鎖に側鎖として結合した場合、該ポリマーはグラフトコポリマーと称される。
液晶(LC)ポリマーでは、モノマーは実質的に2つの方法で互いに結合し得る。液晶ポリマーの液晶部分又はメソーゲン単位はポリマーバックボーンの一部となって主鎖LCポリマーを生成し得る。あるいは、メソーゲン単位はポリマーバックボーンに側基として結合する、即ち、ポリマーバックボーンから伸長し得、この場合は側鎖LCポリマーが生成する。これらの異なる種類のポリマー液晶を、以下に概略的に図示する。メソーゲン単位は長方形で示す。



一般に、側鎖型液晶ポリマーは、以下の図式に示されているように、軟質ポリマーと、該ポリマーの長さに沿って短い軟質(または硬質)単位を介して該軟質ポリマーに結合した硬質セグメント(メソーゲン単位)とを含むものと考えることができる。液晶相において配向を示すのは、メソーゲン単位の異方性硬質セクションである。液晶が示す諸相、及び相転移の結果生じる光学特性に影響を与えるために変更し得る部分は多数存在し、そのうちのいくつかは側鎖型液晶ポリマーに特に適している。これらの部分の1つは、メソーゲン単位とポリマーバックボーンとを結合する軟質部分であり、該部分は通常スペーサー基と称される。このスペーサー基の長さ及び柔軟度は変更可能である。



いくつかの側鎖型液晶ポリマーが公知であり、例えばGB2146787A号を参照されたい。
液晶ポリアクリレートは公知の液晶ポリマー(LCP)類である。LCPは公知であり、電気光学的用途、例えば焦電気的デバイス、非線形光学デバイス及び光学的記憶デバイスに用いられている。例えば、GB2146787号及びMakromol.Chem.(1985),186,2639−2647を参照されたい。
Polymer Communications(1988),24,364−365に、例えば、式



〔式中、(CH2)mは軟質スペーサー基であり、Xは側鎖メソーゲン単位であり、Rは水素またはアルキルである〕
を有する側鎖型液晶ポリアクリレートが記載されている。
Makromol.Chem.Rapid Commun.(1984),5,393−398には、例えば、式



(式中、Rは塩素である)
を有する側鎖型液晶ポリクロロアクリレートが記載されている。
特許出願PCT GB94/00662号には、一連の新規な液晶ポリマーを製造するためのBaylis−Hillman Reactionの使用についての記載が含まれている。
英国特許出願GB9203730.8には、以下の反復単位:



(式中、R1及びR2は独立に、アルキル又は水素であり、R3は、アルキル、水素又は塩素であり、mは0又は1〜20の整数であり、Wは、結合基COO若しくはOOC又はOであり、Xはメソーゲン基である)
を有するポリアクリレートホモポリマー又はコポリマーの製造法が記載されている。
液晶ポリマーに伴う主要な問題点の1つは、該ポリマーはデバイス内での分子配向が極めて困難であることである。液晶ポリマーの分子配向には実質的に2つの方法が用いられている。液晶ポリマーを、以下に詳述する低モル質量液晶の場合と類似の方法で分子配向させようとすることは可能である。あるいは、剪断などの機械的方法を用い得る。機械的剪断は、典型的にはホットローラー上で行なうが、この方法は一般に軟質基板にしか適していない。スライドガラス間に挟まれた試料の剪断は可能ではあるが、スライドガラスは慣用の方法では封止できない。
Liquid Crystals Applications and Uses,第1巻,Bahadur編,World Scientific Publishing Co.Pte.Ltd.,1990,171−194ページのMorozumiによるMaterials and Assembling Process of LCDsと題する論文及び該論文に引用されている参考文献では、その標題が示唆しているように、液晶デバイスの組み立て法が検討されている。
低モル質量の液晶を分子配向させる方法は、典型的には以下の通りである。典型的には、ガラス(例えばスライドガラス)製の基板の表面上に透明電極を形成する。例えば、ねじれ型ネマチックデバイス又は超ねじれ型ネマチックデバイスでは、どちらの基板にも分子配向工程が必要である。液晶分子を配向させるには薄い配向層をデポジットさせるが、その際、典型的には有機または無機配向層を用いる。例えば蒸着したSiOは典型的な無機配向層である。配向層を形成する1つの方法は、織り地又は布地で表面を擦ることを含む。層表面での分子配向にはポリイミドも用いられている。スピナーを用いて電極を担持する基板をポリイミドで被覆し、その後ポリイミドを硬化させて厚さ約50nmの層を形成する。次いで、各層表面を適当な材料で実質的に一方向へ繰り返し擦る。この層に液晶分子がデポジットすると、分子は自動的に擦った方向に配向される。分子が僅かな角度、典型的には2〜3°のプレティルトを有するのが好ましい場合が多い。より大きい角度のプレティルトが必要な場合もある。
次いで、2個の基板を、例えば接着剤で互いに固定し、間隙形成材料を用いて該基板同士を離隔した状態に維持する。このようにして均一且つ正確なセルスペースが得られる。典型的な接着剤はエポキシ樹脂である。通常、この封止材料は、適用後予備硬化させる。次いで、電極を正確に並べて、例えばディスプレイ画素を形成し得る。次いで、例えば100〜150℃でセルを硬化させる。この時点で、空の液晶セルが完成する。
セルに液晶材料を充填するのはこの時点である。液晶セルの封止域の開口寸法はかなり小さく、従って、例えば真空チャンバー内でセルを真空化し、このセル中に液晶をガス圧によって押し込むことができる。これには、封止域に設けた2個以上の孔を用い得る。空にしたセルを真空チャンバーに入れ、次いで、真空チャンバーをポンプで吸引する。セルを真空にした後、シーラントの開口領域を液晶材料に浸漬し、真空チャンバーを常圧に戻す。毛管作用により液晶材料がセル中に吸い込まれるが、その際外部ガスを加えて圧力を高めることができる。充填が完了したらシーラントの孔をキャップ材料で覆い、セルを液晶材料澄明点より高い温度で硬化して液晶分子の配向を安定にし、キャップ材料を硬化させる。
ポリマー液晶分子は低分子量液晶材料よりも粘稠となる傾向を有し、従ってより配向しにくく、またデバイスへの充填がより困難である。低い分子量を有する液晶ポリマーのみがセル中に流入充填(flow fill)され得、重合度が30または40反復単位前後を超えると、ほとんどの液晶ポリマーはセルへの流入充填が極めて困難になる程粘稠となる。液晶ポリマーを分子配向させようとすればはるかに緩慢な冷却が必要となり、結果として通常、分子配向の均一性が低下する。
配向が不十分な液晶分子からは、通常必要とされる高速スイッチング高コントラスト材料及びデバイスが得られない。
上記方法は、スメクチック中間相を示し、かつ該相を利用する液晶材料(例えば強誘電性液晶)を用いるデバイスを含めた多くの液晶材料に適している。適当な分子配向法は、GB2210469B号にも見出すことができる。
強誘電性液晶混合物を含むデバイスは高速スイッチング時間(100マイクロ秒未満)を示し得る(Clark及びLagerwall,Appl.Phys.Lett.36,89,1980)。該デバイスは双安定性であり得る。即ち、行走査(line-at-a-time scan)法を用いて高レベルでマルチプレックス駆動し得る。強誘電性材料は高解像度フラットパネル型デバイスに適用されるために、該材料には研究者により多大な関心が寄せられ続けている。液晶材料を含むデバイスの重要な特徴の1つは、レスポンス時間が短いということである。レスポンス時間はいくつかの要因に依存し、該要因の一つは記号Psによって表わされる自発分極(nC/cm-2として測定)である。液晶混合物にキラルドーパントを添加することによってPsの値を高めることができ、それによってデバイスのレスポンス時間が短縮される。アキラルホストとキラルドーパントとの混合によって製造し得る強誘電性スメクチック液晶材料は、傾斜キラルスメクチックC、F、G、H、I、J及びK相の強誘電特性を用いる。キラルスメクチックC相を記号SC*(*はキラリティーを示す)によって表わす。SC*相は最速スイッチング特性を有するので、通常最も有用であると考えられる。液晶材料を含むデバイスにおいて表面分子配向を促進するためには、材料がキラルスメクチック相よりも高い温度において長ピッチキラルネマチック(N*と表記)及びSA相を示すことが望ましい。強誘電性スメクチック液晶材料は、理想的には以下の特徴:低い粘度、制御可能なPs、及び周囲温度を含む広範な温度範囲にわたって存続し且つ化学的及び光化学的に安定であるSC*相を有する。これらの特徴を有する材料によって、超高速スイッチング液晶を含むデバイスが得られる見込みがある。
Liquid Crystals Applications and Uses,第1巻,Bahadur編,World Scientific Publishing Co.Pte.Ltd.,1990,350−360ページのDijonによるFerroelectricLCDsと題する論文及び該論文に引用されている参考文献では、低モル質量材料のスメクチック相に関する分子配向法が検討されている。スメクチック相は粘稠であるために、セルへの充填は等方性相またはネマチック相においてのみ可能であると考えられる。通常、次の相順序:
I−N−*−SA−SC*又はI−SA−SC*
を有する材料は良好な分子配向を示すが、以下の相順序:
I−N*−SC*
を有する材料はより配向しにくい。
従って、スメクチック相の液晶材料を用いるためには、典型的には、材料を加熱してネマチック相または等方性相とし、これをゆっくり冷却して分子配向されたスメクチック状態とする必要がある。この方法をポリマー液晶材料に適用すると、通常、分子配向の促進のために冷却時間が著しく長くなり、しかも実現する分子配向が不十分なことが極めて多い。
1種以上の公知電気光学的デバイスを含むデバイスに用い得る特性を有する新規な液晶ポリマーが引き続き求められている。
本発明によって、一般式I



[式中、
m=少なくとも5;
X1及びX2は独立に、式IA



(式中、
Yは、COO、OCO、O、S、CHOH、CHF、CH2から選択される;
Q=(CH2)n(但し、1個以上の非隣接メチレンはOによって置き換わり得、及びn=1−20);
Zは、O、S、単共有結合、COO、OCOから選択される;
ここで、YがCH2である場合、nは0でもよい;



は、任意のメソーゲン基を表す)
から選択される;
X1及びX2はまた独立に、H、OH、OCOR1、COOH、CO2R1、(CH2)pOH、(CH2)pCO2H、−(CH2)pOR1、又は−(CH2)pCO2R1から選択され、p=1−20、R1=H又はC1-16アルキルである;
ここで、R1=C2-16アルキルである場合、末端CH3基はBr又はClで置き換えてもよい;
但し、X1とX2の少なくとも一つは式IAから選択される]
を有する物質が提供される。
メソーゲン基は、一般式II



(式中、
A、B、Dは、以下の環から選択される:



上記環は、利用できる置換位置の少なくとも一つで1種以上の以下の置換基で置換されていてもよい:F、Cl、Br、CH3、CN、OR、R及びNCS(式中、RはC1-5分岐鎖又は直鎖アルキルである);
Zは、CN、F、Cl、NO2、R、OR、CO2R、CF3、OOCR、NCS、SCN(式中、R=直鎖又は分岐鎖アルキルであり、1〜16個の炭素原子を含みえ、1種以上の非隣接CH2基が、キラル又は非キラル形態で、CH(CN)、CH(CF3)、CH(Cl)、CH(CH3)で置換されてもよい)から選択される;
但し、存在する環の合計数は4以下である;
W1及びW2は独立に、COO、OCO、単結合、CH2CH2、CH2O、OCH2、O、S、CH=CH、C≡Cから選択される)
によって更に定義される。
本発明の更なる面によって、液晶ポリマーは、適切な官能基を有するジエンの環化を介し合成することができる。
本発明の更なる面によれば、式Iを有する液晶ポリマー及びその誘導体は、以下の一般式III



[式中、
X及びYは独立に、H、式IA、C1-16アルキル、OH、Br、Cl、F、I、CO2Hから選択できるが、X及びYの少なくとも一つは式IAから選択され;
Z及びZ1は独立に、H、CHO、COCH3、CO2H、CN、CF3、F、CO2R、Cl(式中、Rは、キラル鎖を包含し、4〜12個の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、又は脂肪族環もしくは芳香族環、又は適切に官能官されたメソーゲン側鎖基である)から選択される]
の環化によって合成できる。
式IIIを有するその誘導体も、式Iを有する化合物を製造するために使用できる。
本発明によって記載される液晶ポリマーは、ホモポリマー又はコポリマーを含む公知の型のいずれであってもよい。
式IAのYは、エラストマーを製造するために、架橋剤の結合点として使用されるCHOH及びOH基でありうる。
本発明を、例示としてのみ、以下のダイアグラムに関し説明する。
図1:式Iで表される化合物の製造のための合成スキームである。
図2:液晶デバイスを示す。
図3:焦電気デバイスを示す。
図4及び5はそれぞれ、異なるスケールで画いた反射型空間光変調器(本発明の物質が導入されうる)の正面図及び断面図を示す。
以下の薬品を図1で用いた。スキーム1は図1に係わる。
スキーム1



(但し、DCC=ジシクロヘキシルカルボジイミド、DMAP=ジメチルアミノピリジン)
[1]は、関連合成工程に関する情報が記載されている以下の参考文献を指す。
[1]Boltonら、Liq Cryst,12(2),305,1992
スキーム1で使用する薬品は、Irgacure 184を除いてAldrichから市販されており、Irgacure 184はCiba Geigyから入手できる。文献に記載の実験の詳細は、スキーム1に記載の化合物の製造のために少し改変した。物質全ての構造は、1H nmr(JEOL JNM-GX 270MHz分光計)を含むnmr分光分析、赤外線分光分析(Perkin-Elmer 457格子分光計及びPerkin-Elmer 783格子分光計)、及び質量分析(Finnigan-MAT 1020GMS分析計)の組合せで確認した。化合物の純度は、tlc(単一スポット)及び/又はhplc(5μm,25×0.46cm,ODS Microsorbカラム,メタノール,99%超)で検査し、ポリマーの純度は、gpc[5μm,30×0.75cm,2×混合D PLカラム,ポリスチレン標準品(Mp=1000−430500)で較正,トルエン;モノマー不存在]で検査した。
転移温度は、Mettler FP5ホット−ステージ及び対照ユニット、並びにオリンパスBHSP 753偏光顕微鏡、DSC(Perkin Elmer DSC 7)を用いて測定した。物質の相挙動は、光学顕微鏡(オリンパスBH2偏光顕微鏡及びMettler FP52ホット−ステージとFP5対照ユニット)及びX線回折(ブリストル大学)の組合せで測定した。
ジエンの重合の一般的方法を下記する。
乾燥ジクロロメタン(3mL)中のジエン(0.0044mol)とIrgacure 184光開始剤(Ciba-Geigy)(0.09mmol)の溶液を、ガラスプレート(18×25cm)に広げ、溶媒を蒸発させ、モノマーと光開始剤からなる薄フィルムを得た。その薄フィルムをUVAサンランプ(Philips)を用いて6時間UV照射した。得られたポリマーを、メタノールの添加による乾燥ジクロロメタンからの沈殿によって精製し、遠心(5000rpmで30分)で分離した。前駆体のモノマーが完全に除去されるまで(tlcシリカゲル,ジクロロメタン)、精製方法を繰返した。次に、ポリマーを乾燥ジクロロメタン(5mL)に溶解し、得られた溶液を、激しく攪拌しながら石油分画(bp40−60℃)に滴下添加した。産生した白色沈殿を濾過で回収し、石油分画(bp40−60℃)(2×50cm3)で更に2回洗浄し、乾燥ジクロロメタン(5cm3)に再溶解した。次に、この溶液を0.5μm膜フィルターに通し、溶媒を除去し、ガラス状物としてポリマーを得た。次いで、それを、6時間、50℃で真空乾燥した。
例示としてのみによる以下の実験の詳細は環状ポリ(1,4−ペンタジエン)の製造方法を示す。
スキーム1
工程1a



乾燥ジクロロメタン(75cm3)中の1,4−ペンタジエン−3−オール(0.039mol)、11−ブロモウンデカン酸(0.038mol)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(0.040mol)及びN,N−ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.25g)を、室温で6時間一緒に攪拌した。濾過でジシクロヘキシルウレアを除去し、次に溶媒を真空除去して、黄色油状物を得、それは放置すると固化した。ブタノンからの再結晶化により、化合物1を白色固体(82%)(mp45−47℃)として得た。
工程1b



ブロモジエン(1)(0.0016mol)、4−シアノ−4′−ヒドロキシビフェニル(0.0016mol)及び炭酸カリウム(3.0g)を、乾燥ブタノン(60cm3)中で一緒に24時間還流した。濾過で過剰の炭酸カリウムを除去し、次に、溶媒を真空除去し、白色固体を得、それを、溶出剤として酢酸エチルを用いるカラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で精製した。アセトニトリルからの再結晶化により、化合物2を白色粉末(89%)(mp61−63℃)として得た。
工程1c



モノマー(2)(0.0011mol)とIrgacure 184光開始剤(Ciba-Geigy)(0.006mmol)を乾燥ジクロロメタン(3.0cm3)に溶解し、得られた溶液をホウケイ酸塩のガラスプレート(25×18cm2)上に一様に広げた。溶媒を空気蒸発させ、モノマーフィルムを得た。同様のガラスプレートをモノマーフィルム上に置き、2枚のプレートを圧搾し、プレート間に非常に薄いフィルムを作製した。次にモノマーの“サンドイッチ”にPhilips UVA(70w)サンランプを30分間照射した。得られたポリマーをプレートから取出し、メタノール中に懸濁し、遠心した(11,000rpm,10分間)。遠心を更に3回繰返し、次に、ポリマーを乾燥ジクロロメタン(10cm3)に溶解した。得られた溶液を0.5μm膜フィルターに通した。溶媒を除去して、ポリマー3をクリーム色固体(52%)として得た。
以下の化合物は、本発明に基づき合成した例である。ポリ(1,4−ペンタジエン)



本発明を用いる物質とデバイスの使用の例は図2に関し述べる。
液晶デバイスは、例えばガラスから製造された2枚の透明プレート1及び2からなる。これらのプレートは内部表面を透明な導電性電極3及び4で被覆される。配向層5及び6をセルの内部面上に導入し、液晶材料を構成する分子の平面配向をガラスプレート1及び2にほぼ平行とする。このことは、導電性電極で完全にガラスプレート1及び2を被覆し、各列と各行の交点が番地付け可能エレメント、即ち画素のx、yマトリックスを形成するようにする。ディスプレーのある型では、配向方向は直角である。セルの構築の前に、層5及び6を、一定の方向に布(例えばベルベット製)で覆ったローラーで擦る。擦り方向は、セルの構築に際し、平行(同一方向又は逆方向)にする。例えばポリメチルメタクリレートのスペーサー7によって、適当な距離(例えば2ミクロン)を隔ててガラスプレート1及び2を分離する。液晶材料8を、ガラスプレート1及び2の間の空間を満たすように、それらの間に導入する。このことは、標準的技術を用い、セルを流動充填することによってなされうる。現行技術を用い、スペーサー7を接着剤9で真空密封する。偏光板10及び11を、セルの正面と背後に配置できる。
配向層は、こすり、斜蒸発、又はポリマー配向層の使用による上記のような標準的表面処理技術の1種以上により、一つ以上のセルに導入できる。
別の実施態様において、それらの上に配向層を有する基質を加熱し、剪断を与えて配向を誘導するか、あるいは配向層を有する基質をガラス転移温度以上、液晶以下で熱で焼きなまし、印可電界と組合せて等方性相にする。更なる組合せはこれらの配向技術の組合せを含みうる。これらの組合せのいくつかでは、配向層は必要ではないかもしれない。
デバイスは透過モード又は反射モードで作動しうる。前者において、デバイスを通過する光(例えば、タングステンバルブからの)は選択的に透過されるか、又はブロックされて、所望のディスプレイを形成する。反射モードにおいて、ミラー又は拡散反射板(12)は第2の偏光板11の後ろに置いて、セルと2枚の偏光板を通し外界の光を反射させる。ミラーを部分的に反射させることによって、デバイスは透過モードでも反射モードでも作動させうる。
配向層5及び6は2種の機能をする。即ち一つは、好適な方向に接触液晶分子を配向させることであり、他方はこれらの分子に数度、典型的には約4°又は5°の傾き、いわゆる表面傾斜を与えることである。配向層5及び6は、セル壁に数滴のポリイミドを置き、均一の厚さが得られるまで壁を回転させることによって形成させることができる。次に、予め決定した温度に予め決定した時間加熱することによってポリイミドを硬化させ、次にナイロン布で覆われたローラーで一方向に擦る。
別の実施態様では、単一偏光板と色素物質を組合せうる。
セル内に導入されたときに、液晶材料8は液晶ポリマーからなりうるか、又は液晶モノマーと光開始剤からなりうる。それはまた、ポリマーの分子量を限定する薬品、例えば連鎖移動剤を含みうるし、熱開始剤も含みうる。
モノマー物質は、標準的技術、例えば等方性相まで加熱し、そこから、又はネマチック又はキラルネマチック相などの液晶相から冷却することによって、重合前に配向させることができる。液晶ポリマーを、表面力、剪断配向、又は電界配向の使用を含む1種以上の技術によって配向させることも可能である。
重合後、いくらかのモノマー物質がまだ残っていることもありうる。これは、未反応モノマーか、重合可能基を有しない低分子量添加剤でありうる。
重合は公知技術を用いて行うことができる。例えば、モノマー物質と開始剤をUV光に曝し、加熱して、モノマー及び/又はポリマーの所定相内で重合させることができる。
あるいは、重合プロセスは、加熱し、熱開始剤の存在下、行うことができる。しかし、この技術を使用する場合、モノマー物質の液晶相に対応する温度で行うことが好ましいかもしれない。
In-situ重合は英国特許出願GB9420632.3に記載されているが、それには、液晶ポリマーの分子量を制御するために連鎖移動剤の使用についても記載されている。上記のように、本発明の混合物中に連鎖移動剤も存在させることができる。GB9514970.4には、カチオン性光開始剤の存在下でのin-situ重合の記載がある。
式Iによって記載される化合物の多く及び式Iの化合物を含む混合物は、液晶性を示し、有用に液晶デバイスで使用される。このようなデバイスの例には、光学及び電気−光学デバイス、磁気−光学デバイス、並びに温度変化及び全圧もしくは部分圧変化のような刺激に反応するデバイスがある。式Iの化合物はまた、少なくとも2種の化合物を含む混合物にも含まれうる。典型的な混合物には、式Iの化合物からなる混合物及び式Iの化合物を少なくとも1種と式Iではない化合物を少なくとも1種含む混合物などがある。
レーザービームを用い、物質の表面を走査するか、又はそこに書込み記録をするレーザーアドレス適用のための物質が提案されている。種々の理由によって、これらの物質の多くは、可視領域で少なくとも部分的に透明である有機物質からなっている。この技術は、局在化加熱を引起し、次にレーザービームとの接触領域で他の透明物質の光学的性質を変えるレーザーエネルギーの局在化吸収に基づく。即ち、ビームが物質を通過するときに、その経路の書込み記録が後ろでなされる。これらの適用で最も重要なものの一つは、レーザーアドレス光学的保存デバイス、及び該物質を含むセルを通してスクリーンに光を投射するレーザーアドレス投射ディスプレイにある。このようなデバイスは、Khan Appl.Phys.Lett.Vol.22,p.111,1973;Harold and Steele,Proceedings of Euro display 84,p.29-31,1984年9月,パリ、仏(デバイス内の物質はスメクチック液晶材料であった)に記載されている。光学的保存媒質として液晶材料を用いるデバイスは、このようなデバイスの重要なクラスである。半導体レーザー、特にGaxAl1-xAsレーザー(式中、xは0〜1,好ましくは1)の使用は、上記適用で普及している。何故ならば、それらは、見ることができず、可視ディスプレイを妨害できない近赤外波長範囲でレーザーエネルギーを提供でき、更に、十分に明確な、強力な熱エネルギーの有用な源を提供できるからである。ヒ化ガリウムレーザーは、波長約850nmのレーザー光を提供し、上記適用で有用である。Al含量(xは1未満)が増加するにつれ、レーザー波長は約750nmまで減少しうる。保存密度は、短波長のレーザーを用い増加できる。
本発明の化合物は光学的保存媒質として適切でありえ、レーザーアドレスシステム、例えば光学的記録媒質での使用で色素と組合せうる。
本発明によって記載される物質のスメクチック性及び/又はネマチック性は利用できる。例えば、本発明の物質は、強誘電性混合物及びデバイスで使用できる。
本発明の化合物は、例えば検出器、指向性アレイ、及びビジコンカメラなどの焦電気デバイスでも使用できる。
図3は、本発明の物質が導入できる単純な焦電気検出器を示す。
焦電気検出器は、電極プレート1及び2からなり、そのうち少なくとも一つは画素となりうる。操作では、検出器は、電極1に吸収される照射R、例えば赤外照射に曝す。これにより、温度が上がり、それは伝導により焦電気物質層3に伝達される。温度の変化により、熱膨張が起り、電荷が発生する。電荷のこの変化は、温度の変化による自然発生偏光Psの変化による電荷発生と比較して、通常小さい。これは1次焦電気効果である。電荷の変化により、電位間の電位差の変化が起る。各画素の電荷が測定でき、得られたシグナルを用いて、例えば、ビデオモニターで、赤外走査のビジュアルイメージのために、走査回路を変調できる。
本発明に記載の物質の選択的反射性により、本発明の物質はインク及び顔料でも使用でき、それ故、本発明の物質は抗模倣操作で有用でありうる。本発明の物質はまた、いわゆる安全インクでも使用できる。他の適用には、熱制御操作がある。例えば、本発明の物質は、赤外照射を反射するために、1個以上の窓に適用できる被覆に含ませることができる。
図4及び5で示すように、空間光変調器は、典型的には2枚のガラス壁2と3、及び0.1−10μm、例えば2.5μmの厚さのスペーサー4によって形成される液晶セル1を含む。壁の内面は、可変電圧源7に連結させた薄い透明の酸化スズインジウム電極5、6を有する。電極5、6のトップには、後に詳細に記載する例えば擦られたポリイミドの表面配向層8、9がある。他の配向技術、例えばSiO2の蒸発などの非擦り技術も適切である。液晶材料の層10は壁2、3及びスペーサー4の間に含ませる。セル1の正面に線型偏光板11がある。セル1の後ろにクオータープレート12(これは場合による)及びミラー13がある。線型偏光板11の例は、偏光ビームスプリッター(ここで示さず)である。
本発明の化合物が導入できる種々の電傾デバイスがある。例えば、図12と13の上記記述で、活性ブラックプレーンドライビングを使用できる。セルを形成する壁の一つは、シリコン基質、例えば、ドライビング画素の回路を有するウエファーから形成することができる。
これらのデバイスの多くでは、d=(2m+1)λ/4(Δn)(式中、λ=操作波長、Δn=液晶材料の複屈折、m=整数)で表される複屈折(Δn)に関連するセルの最適な厚さがある。
本発明によって記載される電傾デバイスの操作の幾つかの適切な方法は、UK特許出願GB−2247972Aに記載されている。
本発明によって記載されるデバイスの操作の型には、振幅変調又は相変調がある。同様に、デバイスは、反射モード又は透過モードで使用できる。
本発明のこの面の物質は、液晶ディスプレイデバイス、例えばキラルスメクチック電気−光学デバイスの公知型の多くで使用できる。このようなデバイスは、電極構造及び液晶材料分子を配向させるように処理された表面を有する2枚の間隙のあるセル壁の間に含ませた液晶材料の層を含みうる。液晶混合物は強誘電性デバイス、サーモクロミズムデバイス及び電傾デバイスを含む多くの適用が可能である。
本発明の化合物は互いに混合して、有用な液晶混合物を形成でき、また他の液晶ポリマー又は低分子量非ポリマー液晶材料と共に使用できる。
本発明の物質が導入できる適切なデバイスには、ビームステアラー、シャッター、変調器、及び焦電気と圧電気センサーなどがある。
本発明の物質はまた、マルチプレックスでありうる強誘電性液晶デバイスでドーパントとしても有用でありうる。あるいは、活性バックプレーン強誘電性液晶システムで使用できる。本発明の物質はまた、ホスト材料としても有用でありうる。本発明の物質は、1種以上のドーパントも含む混合物中に含ませることができる。
式Iの化合物は、広範囲のホスト、例えばスメクチックホストと混合して、有用な液晶組成物を形成できる。このような組成物はPs値のある範囲を有しうる。式Iの化合物は、1種以上の型のホストVIII−XIIIと混合できる。これらの異なる型のホストは一緒に混合され、一般式Iの化合物もそれに加えることができる。
典型的なホストには以下のものがある。
PCT/GB86/00040に記載の化合物、例えば式VIII



(式中、R1及びR2は独立にC3−C12アルキル又はアルコキシ)の化合物。
EPA84304894.3とGBA8725928に記載のフルオロ−ターフェニル、例えばIX



(式中、R1及びR2は独立に、C3−C12アルキル又はアルコキシ、xは1、Fは特定されたフェニル環上で利用できる置換位置上にありうる)の化合物。
GBA8905422.5に記載のジフルオロ−ターフェニル、例えば式X



(式中、R1及びR2は独立に、C3−C12アルキル又はアルコキシ)の化合物。
WO86/00087に記載のフェニル−ピリミジン、例えば式XI



の化合物(式中、R1はC3−C12アルキル、R2は一般式(CH2)n−CHXCH2CH3(nは1〜5、XはCN又はCl)で表される化合物を含む)。
独、フライベルグ、16回フライベルグ液晶会議でCyclohexanederivative mit Getilteneten Smektischen Phasen,p8でR.Eidenschinkらによって記載の化合物。E Merck Ltd,独から市販、例えば式XII



の化合物(R1及びR2は独立にC1−C15アルキルである化合物を含む)。
第2回国際強誘電性液晶シンポジウム、Goteborg、スエーデン、1989年6月、Reiffenrathらによって記載のジフルオロ−フェニルピリミジン、例えば式XIII



の化合物(R1及びR2は独立にC3−C9アルキルである化合物を含む)。
本発明の物質はまた、サーモクロミーデバイス、例えばThermochromic Cryatals,Critical Reports on Applied Chemistry,vol.22,G.W.Gray編,1987 pp120-44及びその中の参考文献中で、D.G,McDonnellによって記載のデバイスで有用でありうる。
本出願人の出願GB9522362.4の図2−8に記載の合成スキームも、適切な改変により本出願に記載のポリ(1,4−ペンタジエン)に適用できる。


--------------------------------------------------------------------------------

【図1】



【図2】



【図3】



【図4】



【図5】





--------------------------------------------------------------------------------



後半

     二

 明国の末に瞿稼軒といふ忠節の人があつた。倒れかかつた国家の柱石として、いろいろ復興の画策につとめたが、時の勢はどうすることもできないで、守つてゐる城は、清兵のために攻め落されて、自分は捕虜の身となつた。
 彼は舁がれて独秀山の山路を通りかかつた。ふと、大きな樹の蔭に見馴れない変つた形をした石が生き物のやうにかいつくばつて、醜い顔で天をふり仰いでゐるのを見た。彼は自分を舁いでゐる兵卒を呼びとめた。
『おい。一寸ここにおろしてくれ。あの不思議な石が眼についたから。』
 彼はつねから庭石が好きだつたので、今捕虜として舁がれて往く途中でも、石を見つけてはそのまま別れてゆくに忍びなかつたのだ。
 兵卒は承知した。地べたにおろされた瞿稼軒は、側に寄つてためつすがめつ石の形相を見てゐたが、やがて襟を正して丁寧にお辞儀をした。
『ここでお前さんに出逢つたのは、ほんたうに幸福だつた。どうか永く側においてもらひたいものだ。』
 彼は人に話しかけるやうにいつた。そしていつまで経つても立上らうとしなかつた。

ドライブ

ドライブガイド【ドライブ!ぐるなび】
全国のドライブスポット、周辺のレストラン情報
ドライブガイド
ニッポンレンタカーによるドライブコースを紹介
MOCONET
テーマ別ドライブコース、ドライブスポットの紹介
アウトバックで行く日本の旅
本州を中心としたドライブレポート
海沿いドライブのすすめ!!
海岸沿いのドライブ風景画像
高速道路からの山岳展望
高速道路から見ることができる山々の写真


デートコース

デートスポット
全国のデートスポットの紹介
使える!デートスポット
デートに使えるレストラン等を体験に基づいて紹介



カップリングパーティー情報局
カップリングパーティーを攻略するための情報

 私たちは勝負をずっと夜までつづけ、私はとうとうグレンディニングを自分のただ一人の相手にする運びをつけてしまった。競技は、そのうえ、私の得意のエカルテ(10)だった。一座の他の連中は、私たちの勝負の大きいのに興味を持ち、自分たちの札を投げ出してしまって、二人のまわりに立って見物した。宵(よい)のうちに私の謀略でしたたか酒を飲まされていたその成金は、いまやひどく神経質な態度で札を切ったり、配ったり、打ったりしたが、その態度はいくらかは酔いのためであろうがそればかりではないにちがいないと私には思われた。またたく間に彼は私からずいぶんの額を借りることになったが、そのとき、彼はポルト酒をぐうっと一気に飲みほすと、まさに私が冷静に予期していたとおりのことをした。――そうでなくとも法外な額の賭金(かけきん)を、二倍にしようと申込んだのだ。いかにも厭(いや)なような様子をしてみせ、また幾度も拒絶して彼を怒らせて、おとなしくしている自分をもちょっとむっとさせるような言葉を彼に吐かせてから、とうとう私は応諾してやった。その結果は、無論、その餌食(えじき)がいかにまったく私の罠にかかっているかということを示すだけだった。一時間もたたないうちに彼は借金を四倍にしてしまった。少し前から彼の顔は酒のために染まった赤らんだ色合いを失いつつあったが、いまや、驚いたことには、それがまったく恐ろしいくらいの蒼(あお)さになっているのを私は認めた。驚いたことには、と私は言う。グレンディニングは、私が熱心に探ったところでは、測り知れないくらいの金持だったのだ。そしてそれまでに彼の損をした額は、それだけとしては莫大なものではあるけれど、さほど大して彼を困らせるはずはない、ましてそんなにはげしく彼に打撃を与えるはずがないと私は考えた。たったいま飲みこんだ酒に酔いつぶれたのだというのが、すぐさま胸に浮んだ考えであった。そこで、私は、それほど利己的ではない他のいかなる動機でよりも、むしろただ仲間たちの目に自分自身の品性を保とうというだけの目的で、勝負を中絶することをきっぱり主張しようとしたそのとき、一座のなかの私の近くにいた者の口にした二、三言と、グレンディニングの思わず発したまったくの絶望を表わす声とは、彼が、みんなの憐憫(れんびん)の的となって悪魔の仇(あだ)からでも保護されるくらいな事情のもとに、私のために完全な破滅をさせられたのだ、ということを私に理解させたのであった。

諸君

 このとき私がどう振舞ったろうかということは、言うのがむずかしい。私にひっかけられた男のその惨(みじ)めな有様は、あらゆるものにせっぱつまったような陰惨な様子を投げかけていた。そしてしばらく深い沈黙がつづいたが、そのあいだ、私は、一座のなかの比較的真面目(まじめ)な連中が自分に投げる、軽蔑(けいべつ)や非難の焼くような多くの視線で、自分の頬(ほお)がちくちくするのを感ぜずにはいられなかった。そのとき不意の驚くべき出来事が突発したために、自分の胸からちょっとのあいだ堪えがたい苦痛の重みが取りのけられたくらいだ、ということを私は白状してもいい。その室の広い、重い両開き扉がとつぜんぱっといっぱいに開かれ、その力強い凄(すさ)まじい猛烈さのために、部屋じゅうの蝋燭(ろうそく)が一つ残らず、まるで魔術で消えたかのように消されたのだ。その蝋燭の明りが消えてゆくときに、私たちは、私くらいの背の、外套(がいとう)にぴったりとくるまった一人の見知らぬ男が入っているのを、ちょっと認めることができた。けれども、すぐにまったくの真っ暗闇(くらやみ)となり、私たちはただその男がみんなの真ん中に立っているのを感ずることができるだけだった。この無作法に一同がすっかり驚き、まだ一人もその驚きが鎮(しず)まらないうちに、その闖入者(ちんにゅうしゃ)の声が聞えたのであった。
「諸君」と彼は、私の骨の髄までもぞっとするような、低い、はっきりした、決して忘れられないささやき声で言った。「諸君、私はこの振舞いにたいしてなにも弁解はしません。こう振舞って、ただ私は一つの義務を果しているのだからです。諸君はたしかに、今夜グレンディニング卿(きょう)からエカルテで大金をまき上げた人間の本性をご存じない。だから、私は、そのきわめて必要な知識を得る手っ取り早い確かな方法を一つ、諸君にお授けしましょう。どうか、その男の左の袖(そで)のカフスの内側と、縫取りしたモーニング・ラッパーの広いほうのポケットのなかにあるはずのいくつかの小さな包みとを、ごゆっくりお調べください」

妙な医学生

     妙な医学生

 医学生吹矢隆二は、その日も朝から、腸(はらわた)のことばかり考えていた。
 午後三時の時計がうつと、彼は外出した。
 彼の住んでいる家というのは高架線のアーチの下を、家らしい恰好にしただけの、すこぶる風変りな住宅だった。
 そういう風変りな家に住んでいる彼吹矢隆二という人物が、またすこぶる風変りな医学生であって、助手でもないくせに、大学医科にもう七年も在学しているという日本に一人とあって二人とない長期医学生であった。
 そういうことになるのも、元来彼が課目制の学科試験を、気に入った分だけ受けることにし、決して欲ばらないということをモットーにしているのによる。されば入学以来七年もかかっているのに、まだ不合格の課目が五つほど残っていた。
 彼は、学校に出かけることは殆どなく、たいがい例の喧騒の真只中にある風変りな自宅でしめやかに暮していた。
 いまだかつて彼の家をのぞいた者は、まず三人となかろう。一人は大家であり、他の一人は、彼がこれから腸(はらわた)のことについて電話をかけようと思っている先の人物――つまり熊本博士ぐらいのものであった。
 彼は青い顔の上に、ライオンのように房づいた長髪をのせ、世にもかぼそい身体を、てかてかに擦れた金ボタンつきの黒い制服に包んで駅前にある公衆電話の函に歩みよった。
 彼が電話をかけるところは、男囚二千七百名を収容している○○刑務所の附属病院であった。ここでは、看護婦はいけないとあってすべて同性の看護夫でやっている。男囚に婦人を見せてはよくないことは、すでに公知の事実である。
「はあ、こちらは○○刑務病院でございます」
「ああ、○○刑務病院かね。――ふん、熊本博士をよんでくれたまえ。僕か、僕は猪俣とでもいっておいてくれ」
 と、彼はなぜか偽名をつかい、横柄な口をきいて、交換嬢を銅線の延長の上においておびえさせた。
「ああ熊本君か。僕は――いわんでも分っているだろう。今日は大丈夫かね。まちがいなしかね。本当に腸(はらわた)を用意しておいてくれたんだね。――南から三つ目の窓だったね。もしまちがっていると、僕は考えていることがあるんだぜ。そいつはおそらく君に職を失わせ、そしてつづいて食を与えないことになろう。――いやおどかすわけではない。君は常に、はいはいといって僕のいいつけをきいてりゃいいんだ。――行くぜ。きっとさ。夜の十一時だったな」
 そこで彼は、誰が聞いてもけしからん電話を切った。
 熊本博士といえば、世間からその美しい人格をたたえられている○○刑務病院の外科長であった。彼は家庭に、マネキン人形のように美しい妻君をもってい、またすくなからぬ貯金をつくったという幸福そのもののような医学者であった。
 しかしなぜか吹矢は、博士のことを頭ごなしにやっつけてしまう悪い習慣があった。もっとも彼にいわせると、熊本博士なんか風上におけないインチキ人物であって、天に代って大いにいじめてやる必要のあるインテリ策士であるという。
 そういって、けなしつけている一方[#底本では「けなしている一方」]、医学生吹矢は、学歴においては数十歩先輩の熊本博士を百パーセントに利用し、すくなからぬその恩恵に浴しているくせに、熊本博士をつねに奴隷のごとく使役した。
「腸(はらわた)を用意しておいてくれたろうね」
 さっき吹矢はそういう電話をかけていたが、これで見ると彼は、熊本博士に対しまた威嚇手段を弄しているものらしい。しかし「腸(はらわた)を用意」とはいったいなにごとであるか。彼はいま、なにを企て、そしてなにを考えているのであろうか。
 今夜の十一時にならないと、その答は出ないのであった。

     三番目の窓

 すでに午後十時五十八分であった。
 ○○刑務病院の小さい鉄門に[#底本では「小さな鉄門に」]、一人の大学生の身体がどしんとぶつかった。
「やに早く締めるじゃないか」
 と、一言文句をいって鉄門を押した。
 鉄門は、わけなく開いた。錠をかけてあるわけではなく、鉄門の下にコンクリの固まりを錘りとして、ちょっとおさえてあるばかりなのであったから。
「やあ、――」
 守衛は、吹矢に挨拶されてペコンとお辞儀をした。どういうわけかしらんが、この病院の大権威熊本先生を呼び捨てにしているくらいの医学生であるから、風采はむくつけであるが熊本博士の旧藩主の血かなんか[#底本では「旧藩主の血なんか」]引いているのであろうと善意に解し、したがってこの衛門では、常に第一公式の敬礼をしていた。
 ふふんと鼻を鳴らして、弊服獅子頭の医学生吹矢隆二は、守衛の前を通りぬけると、暗い病院の植込みに歩を運んだ。
 彼はすたすたと足をはやめ、暗い庭を、梟(ふくろう)のように達者に縫って歩いた。やがて目の前に第四病舎が現われた。
(南から三番目の窓だったな)
 彼はおそれげもなく、窓下に近づいた。そこには蜜柑函らしいものが転がっていた。これも熊本博士のサーヴィスであろう――とおもって、それを踏み台に使ってやった。そして重い窓をうんと上につき上げたのである。
 窓ガラスは、するすると上にあがった。うべなるかな、熊本博士は、窓を支える滑車のシャフトにも油をさしておいたから、こう楽に上るのだ。
 よって医学生吹矢は、すぐ目の前なるテーブルの上から、やけに太い、長さ一メートルばかりもあるガラス管を鷲づかみにすることができた。
「ほほう、入っているぞ」
 医学生吹矢は、そのずっしりと重いガラス管を塀の上に光る街路燈の方にすかしてみた。ガラス管の中に、清澄な液を口のところまで充たしており、その中に灰色とも薄紫色ともつかない妙な色の、どろっとしたものが漬かっていた。
「うん、欲しいとおもっていたものが、やっと手に入ったぞ、こいつはほんとうに素晴らしいや」
 吹矢は、にやりと快心の笑みをたたえて、窓ガラスをもとのようにおろした。そして盗みだした太いガラス管を右手にステッキのようにつかんで、地面に下りた。
「やあ、夜の庭園散歩はいいですなあ」
 衛門の前をとおりぬけるときに、およそ彼には似つかわしからぬ挨拶をした。が、彼はその夜の臓品が、よほど嬉しかったのにちがいない。
「うえっ、恐れいりました」
 守衛は、全身を硬直させ、本当に恐れいって挨拶をかえした。
 門を出ると、彼は太いガラス管を肩にかつぎ下駄ばきのまま、どんどん歩きだした。そして三時間もかかって、やっと自宅へかえってきた。街はもう騒ぎつかれて倒れてしまったようにひっそり閑としていた。
 彼は誰にも見られないで、家の中に入ることができた。彼は電燈をつけた。
「うん、実に素晴らしい。実に見事な腸(はらわた)だ」
 彼は、ガラス管をもちあげ電燈の光に透かしてみて三嘆した。
 すこし青味のついた液体の中に彼のいう「腸(はらわた)」なるものがどろんとよどんでいる。
「あ、生きているぞ」
 薄紫色の腸(はらわた)が、よく見ると、ぐにゃりぐにゃりと動いている。リンゲル氏液の中で、蠕動をやっているのであった。
 生きている腸(はらわた)!
 医学生吹矢[#底本では「医学当吹矢」と誤り]が、もう一年この方、熊本博士に対し熱心にねだっていたのは、実にこの生きている腸(はらわた)であった。他のことはききいれても、この生きている腸(はらわた)の願いだけは、なかなかききいれなかった熊本博士だった。
「なんだい、博士。お前のところには[#底本では「お前のところは」]、男囚が二千九百名もいるんじゃないか。中には死刑になるやつもいるしさ、盲腸炎になったりまた変死するやつもいるだろうじゃないか。その中から、わずか百C・M(ツェーエム)ぐらいの腸(はらわた)をごまかせないはずはない。こら、お前、いうことをきかないなら、例のあれをあれするがいいか。いやなら、早く俺のいうことをきけ」
 などと恐喝、ここに一年ぶりに、やっと待望久しかりし生きている腸(はらわた)を手にいれたのであった。
 彼はなぜ、そのような気味のわるい生きている腸(はらわた)を手に入れたがったのであろうか。それは彼の蒐集癖を満足するためであったろうか。
 否!

リンゲル氏液内の生態

    リンゲル氏液内の生態

 生きている腸(はらわた)――なんてものは、文献の上では、さまで珍奇なものではなかった。
 生理学の教科書を見れば、リンゲル氏液の中で生きているモルモットの腸(ちょう)、兎の腸(ちょう)、犬の腸(ちょう)、それから人間の腸(ちょう)など、うるさいほどたくさんに書きつらなっている。
 標本としても生きている腸(ちょう)は、そう珍らしいものではない。
 医学生吹矢が、ここにひそかに誇りとするものは、この見事なる幅広の大腸(ちょう)が、ステッキよりももっと長い、百C・M(ツェーエム)もリンゲル氏液の入った太いガラス管の中で、活撥な蠕動をつづけているということであった。こんな立派なやつはおそらく天下にどこにもなかろう。まったくもってわが熊本博士はえらいところがあると、彼はガラス管にむかって恭々しく敬礼をささげたのだった。
 彼は生ける腸(はらわた)を、部屋の中央に飾りつけた。天井から紐をぶら下げ、それにガラス管の口をしばりつけたものであった。下には、ガラス管のお尻をうける台をつくった。
 黴くさい医学書が山のように積みあげられ、そしてわけのわからぬ錆ついた手術具や医療器械やが、所もせまくもちこまれている医学生吹矢の室は、もともと奇々怪々なる風景を呈していたが、いまこの珍客「生ける腸(はらわた)」を迎えて、いよいよ怪奇的装飾は整った。
 吹矢は脚の高い三脚椅子を天井からぶら下る[#底本では「天井からぶら下げる」]ガガラス管の前にもっていった。彼はその上にちょこんと腰をかけ、さも感にたえたというふうに腕組みして、清澄なる液体のなかに蠢くこの奇妙な人体の一部を凝視している。
 ぐにゃ、、ぐにゃ、ぐにゃ。
 ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ。[#底本では「ぶるっ、ぶるっ、ぶるっ。」]
 見ていると腸(はらわた)は、人間の顔などでは到底表わせないような複雑な表情でもって、全面を曲げ動かしている。
「おかしなものだ。しかし、こいつはこうして見ていると、人間よりも高等な生き物のような気がする」
 と医学生吹矢は、ふと論理学を超越した卓抜なる所見を洩らした。
 それからのちの医学生吹矢は、彼自身が生ける腸(はらわた)になってしまうのではないかとおもわれるふうに、ガラス管の前に石像のように固くなったままいつまでも生ける腸(はらわた)から目を放そうとはしなかった。
 食事も、尾籠な話であるが排泄も彼は極端に切りつめているようであった。ほんの一、二分でも、彼は生きている腸(はらわた)の前をはなれるのを好まなかった。
 そういう状態が、三日もつづいた。
 その揚句のことであった。
 彼は連日の緊張生活に疲れ切って、いつの間にか三脚椅子の上に眠りこんでいたらしく自分の高鼾にはっと目ざめた。室内はまっくらであった。
 彼は不吉な予感に襲われた。すぐと彼は椅子からとびおりて、電燈のスイッチをひねった。大切な、生ける腸(はらわた)が、もしや盗まれたのではないかと思ったからである。
「ふーん、まあよかった」
 腸(はらわた)の入ったガラス管は、あいかわらず天井からぶらさがっていた。
 だが彼は、間もなく悲鳴に似た叫び声をあげた。
「あっ、たいへんだ。腸(はらわた)が動いていない!」
 彼はどすんと床の上に大きな音をたてて、尻餅をついた。彼は気違いのように頭髪をかきむしった。真黒い嵐のような絶望!
「ま、待てよ――」
 彼はひとりで顔を赭らめて、立ちあがった。彼はピューレットを手にもった。そして三脚椅子の上にのぼった。
 ガラス管の中から、清澄なる液をピューレット一杯に吸いとった。そしてそれを排水口に流した。
 そのあとで、薬品棚から一万倍のコリン液と貼札してある壜を下ろし、空のピューレットをその中にさしこんだ。
 液は下から吸いあがってきた。
 彼は敏捷にまた三脚椅子の上にとびあがった。そしてコリン液を抱いているピューレットを、そっとガラス管の中にうつした。
 液はしずかに、リンゲル氏液の中にとけていった。
 ガラス管の中をじっと見つめている彼の眼はすごいものであった。が、しばらくして彼の口辺に、微笑がうかんだ。
「――動きだした」
 腸(はらわた)は、ふたたび、ぐるっ、ぐるっ、ぐるっと蠕動をはじめたのであった。
「コリンを忘れていたなんて、俺もちっとどうかしている」
 と彼は少女のように恥らいつつ、大きな溜息をついた。
「腸(はらわた)はまだ生きている。しかし早速、訓練にとりかからないと、途中で死んでしまうかもしれない」
 彼はシャツの腕をまくりあげ、壁にかけてあった汚れた手術衣に腕をとおした。

     素晴らしき実験

 彼は、別人のように活撥になっていた。
「さあ、訓練だ」
 なにを訓練するのであろうか。彼は、部屋の中を歩きまわって、蛇管や清浄器や架台など、いろいろなものを抱えあつめてきた。
「さあ、、医学史はじまっての大実験に、俺はきっと凱歌をあげてみせるぞ」
 彼は、ぼつぼつ独り言をいいながら、さらにレトルトや金網やブンゼン燈などをあつめてきた。
 そのうちに彼は、あつめてきた道具の真ん中に立って、まるで芝居の大道具方のように実験用器の組立てにかかった。
 見る見るガラスと金具と液体との建築は、たいへん大がかりにまとまっていった。その建築はどうやら生ける腸(はらわた)の入ったガラス管を中心とするように見えた。
 電気のスイッチが入ってパイロット・ランプが青から赤にかわった。部屋の隅では、ごとごとと低い音をたてて喞筒モートルが廻りだした。
 医学生吹矢隆二の両眼は、いよいよ気味わるい光をおびてきた。
 一体彼は、何を始めようというのであるか。
 電気も通じてブンゼン燈にも薄青い焔が点ぜられた。
 生ける腸(はらわた)の入ったガラス管の中には、二本の細いガラス管がさしこまれた。
 その一本からは、ぶくぶくと小さい泡がたった。
 吹矢隆二は、大きな画板みたいなものを首から紐でかけ、そして鉛筆のさきをなめながら、電流計や比重計や温度計の前を、かわるがわる往ったり来たりして、首にかけた方眼紙の上に色鉛筆でもってマークをつけていった。
 赤と青と緑と紫と黒との曲線がすこしずつ方眼紙の上をのびてゆく。
 そうしているうちにも、彼はガラス管の前に小首をかたむけ、熱心な眼つきで、蠕動をつづける腸(はらわた)をながめるのであった。
 彼は文字通り寝食を忘れて、この忍耐のいる実験を継続した。まったく人間業とはおもわれない活動ぶりであった。
 今朝の六時と、夕方の六時と、この二つの時刻における腸(はらわた)の状況をくらべてみると、たしかにすこし様子がかわっている。
 さらにまた十二時間経つと、また何かしら変った状態が看取されるのであった。
 実験がすすむにつれ、リンゲル氏液の温度はすこしずつのぼり、それからまたリンゲル氏液の濃度はすこしずつ減少していった。
 実験第四日目においては、腸(はらわた)を収容しているガラス管の中は、ほとんど水ばかりの液になった。
 実験第六日目には、ガラス管の中に液体は見えずになり、その代りに淡紅色のガスがもやもやと雲のようにうごいていた。
 ガラス管の中には、液のなくなったことを知らぬげに、例の腸(はらわた)はぴくりぴくりと蠕動をつづけているのであった。
 医学生吹矢の顔は、馬鹿囃の面のように、かたい笑いが貼りついていた。
「うふん、うふん。いやもうここまででも、世界の医学史をりっぱに破ってしまったんだ。ガス体の中で生きている腸(はらわた)! ああなんという素晴らしい実験だ!」
 彼はつぎつぎに新らしい装置を準備しては古い装置をとりのけた。
 実験第八日目には、ガラス管の中のガスは、無色透明になってしまった。
 実験第九日目には、ブンゼン燈の焔が消えた。ぶくぶくと泡立っていたガスが停った。
 実験第十日目には、モートルの音までがぴたりと停ってしまった。実験室のなかは、廃墟のようにしーんとしてしまった。
 ちょうどそれは、午前三時のことであった。
 それからなお二十四時間というものを、彼は慎重な感度でそのままに放置した。
 二十四時間経ったその翌日の午前三時であった。彼はおずおずとガラス管のそばに顔をよせた。
 ガラス管の中の腸(はらわた)は、今や常温湿度[#底本では「常温常湿度」]の大気中で、ぐにゃりぐにゃりと活撥な蠕動をつづけていた。
 医学生吹矢隆二は彼の考案した独特の訓練法により、世界中のいかなる医学者も[#底本では「いかなる医学生も」]手をつけたことのなかったところの、大気中における腸(はらわた)の生存実験についに成功した[#底本では「生存実験について成功した」]のであった。

calendar
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>
sponsored links
リンク
なまちゃ
ページランク アップ大作戦
駆け出し小説家への道?
相互リンクの相互リンク時計
ICE & COOL
DNAと出会い
だってファンなんですもの
出会い 友情 愛情
出会いサイト
アダルトビデオ
SEO対策とアフィリエイトを頑張ってみるブログ
出会いサイト調査団
出会いと友情
selected entries
archives
recent comment
recent trackback
recommend
profile
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM